大学受験指導・コンサルティングの「コストパフォーマンス」と「成果報酬」について

筆者の教育職としての「値段」は「2時間につき5万円」としている次第でして,これは「毎週1回2時間指導」で進めると「1年間で250万円」に相当する,という事までは既に当サイト固定ページにも書いている通りですが,これがどのくらいのコストパフォーマンスに相当するのか,について,ちょっと今回記事で触れておきたいと思います.

無論,「中高一貫私立に通わせて予備校スタンダード(セット)コースも併用」に比べれば,「公立中学→そこそこ大学進学率の高い公立高校に進学して,高校1・2年次の内容を(必要なら筆者の単回コンサルティングに基づいて)着実に身に付けて学力とした上で,筆者を高3次の1年間雇う」という方が”お買い得”である事は簡単な計算で明らかですが,大方の高校1・2年生は,大学進学を前提としているにもかかわらず,「本業受験生」になっていないので….

 

比較的具体数値を用いて「計算」が出来そうな例としては,私大医学部医学科へ進学する場合が先ず考えられます.
詳しく言えば,「学費(6年間合計)と偏差値(大学入試ボーダー)の相関」を各大学毎にプロットして求めてみると,実は「偏差値が1ポイント上昇するにつき,学費が約273万円安くなる」という結果が出てきます(相関係数約0.7).また更に,ここからグラフを伸ばして国公立大学の6年間学費に当てて試算すると,国公立大学医学部医学科の偏差値(期待値)は約72~73と求まります.これは,実際の「偏差値表」とおおよそ大差ない数値です(尤も,国公立大学医学部医学科に関しては,入試出題特性や学閥の威力如何等の要素も効いてくるので,結果として実際の入試偏差値にバラツキが生じる訳ですが).

医学部医学科に合格した筆者の教え子の中には,未ださすがに「1年未満の偏差値20UPで合格」すなわち「受験年度の4月~5月時点で偏差値45以下から医学部医学科(概ね河合偏差値65以上)へその年度に合格」という人は出ていないのですが(以前述べた通り,特に私大医学部は算出されている偏差値水準の学力に加えて「速答・ノーミス」が要求される為,偏差値に反映されない範囲で傾向対策学習が必要になる由),さても結果評価からすれば,他の筆者のコンサルティング料などと同様に「成果の1割を対価として請求」するなら「受験学年当初からの偏差値上昇1ポイントにつき27万3000円を頂きたい」という話になります.これだと偏差値3.5ポイント向上くらいで報酬7桁に達してしまう事になりますが,実際問題として医学部受験対応だったらそのくらい貰ってもいいような気もします;それ程に医学部受験対策は手間暇が掛かります.

 

これが,大学入試でも医学部医学科以外の場合ですと,学部別に限っても入試偏差値と4年間学費との相関は見えづらく,逆に言えば「学費に比して受験難易度が割に合ってない大学」や「やけにお買い得な大学」が存在する事になります:これはいわゆる「大学ブランド」という話になるのだろうと思われますが,但しその中でも「学費が相対的に安い大学・学部は偏差値が高くなりやすい」という傾向は一応垣間見られる事はあります.尤も,この現象が「(医学部医学科同様に)学費の安さにつられて偏差値が高難度になっている」のか,あるいは「いわゆる下位校だと入学時の学力不足に対応する教育コストが増えて学費が上がる」といった現象ゆえの事なのかは,さほど明確には見えてきません.

あるいは,国公立大学の交付金や私学助成金の「学生一人当たり金額」から計算を試みる事も,一応は考えられます:例えば,東京大学は学生1人あたりの税金投入額が年間約300万円なので,大学院修士課程まで6年間を標準的と考えれば「約2千万円の税金を貰っている」という事になります.これに国立大学の学費年間約54万円を加えた額面と,早稲田大学理工学部(ここではvs.東大理一で考えています)の年間学費+私学助成金の数値を比較すれば「相当する偏差値差」は…という話になる訳ですが,その裏にはやはり「大学ブランド」が大きく効いてくるので,それこそ例えば「早稲田と横浜国立の双方理工だったらどうか」といった比較は遥かに難しくなります.

更に言えば,「東大理一と慶應医学部の比較」みたいな,学部の差異を横断しての比較という事になってくると,これはもう,実際の「両方合格者動向」を見て超概算するくらいしか出来ないのではないかと思われます.大学受験情報を扱っている雑誌等の中には,「A大学X学部とB大学Y学部両方受かったら合格者はどちらに進学しているか?」といった調査を行って特集記事にしている事例も見受けられますが,調査集計を行った母集団の規模が小さく,統計データとしてはおよそ使い物にならない場合がほとんどです.

 

それでもなお,「5月の河合偏差値で60届いた科目と届かなかった科目が有る程度の学力だけど東大ブランドが欲しい」みたいなクライアントに対しては,筆者は差し当たり「指導料としての時間対価」をもって仕事を引き受けますが,首尾よく当該年度に合格させたとして,「成果報酬」を一体何を以て計れば良いのか,今一つ分かりません.大抵は「御家庭がテキトウに包んでくれた御礼封筒」を受け取って”成果報酬らしきもの”だと思う事になる訳ですが,それにしては随分と安上がりなお土産程度で済まされている場合が大半です.さりとて,「第一志望はゆずれない」などと言って(笑)「All-or-Nothing」方式にすると,指導者の負荷が更に大きくなってしまう懸念が大きくなります(「保護者に対する指導」を強めなくてはならなくなる為).

 

筆者はつねづね,出来る事なら受験指導業界にも「成果報酬制度」を導入したい,その方が望ましい,と思っているのですが,斯様な「結果が出てもなお指導業績評価が不明瞭」という状況が,受験産業における「プリンシパル・エージェント問題」(プロ家庭教師・個別指導の効力に対する評価のみならず,塾・予備校やひいては私立中学高校の学費の妥当性などに至るまで;無論,「不当に高い」場合のみならず,実務者へ渡る給与が「不当に安い」という,これまたよく知られた問題をも含みます)を引き起こしている,小さからぬ一因ではないかという気がしてなりません.

企業コンサルタントの場合の「売上」なり「純利益」なりに対応する形で,「当該学校卒業生の生涯年収平均」などと言ってみようにも,40年遅れで学校ブランドが評価される形になってしまい,(敢えて言いますが)悪く言えば「株価相場」的な側面もある受験偏差値・及びそこから「生成」される学校ブランド(なんと!;しかし,このような構図は現実にしばしばある事です)の現在価値換算に対しては,割引価格とか収益還元法(これらとてあやしいものと言われれば否定は出来ないでしょうが)のような方法論さえ,未だ出来ていません.

 

それこそ例えば,「医学部医学科は偏差値1ポイント向上につき14万円(1割だと上記の数字を見てちょっと高い気もするので貢献利益の5%として),それ以外の大学学部については,『偏差値20アップで100万円』から逆算して1ポイント向上につき5万円」などと設定してみると,受験「コンサルタント」らしく見えてくるような気はします.ですが,この場合「週1回2時間指導で1年間合計対価350万円」みたいな事になって,さすがに「公立中高経由ルートの場合でもイマイチ割が良くない」話に陥りかねません.

 

こうして見てくると,「相場なんて有って無いようなもの」という点においては,プロ家庭教師もコンサルタントと本質的に大差ないような気もします.

筆者は以前記事でも述べている通り,「プロ家庭教師業は指導時間の5~10倍実労務時間が掛かる」とした上で「実質時間対価2500~5000円」(=年収500万~1000万円相当)と暫定算出していた訳ですが,そもそも「教育の対価」って,果たして一体どんなもんなのでしょうか.

 

御蔭様で拙著はAmazon流通分野8位まで上昇しておりました.何屋だよコイツ.

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