【報告】トライグループ様の提供する契約の適法性に関して意見を表明しお伝えしました

【三行概説】

・トライグループの業務委託契約に際して,筆者が適法性に疑義を持った

・当該契約成文の内容や諸法令及び所轄省庁通達・判例等を精査した上,確認及び必要に応じた改善提案をお伝えした

・トライグループ側としては真摯に御対応頂くとの回答を得た(イマココ)

 

【本編】

なんか中学入試対応が成業した事もあってか(?),筆者の所にも中学受験生指導のオファーが増えてきた訳です.

で,その中でも元々業界大手のトライグループ様ともご縁が有り,つきましては「形式的に研修を受けて下さい」という話になりまして:ちなみに,学生アルバイト向けではなく大人向け講師用です.

…と,その中で,「適性検査」と題したテストの設問中に,「指導時間中の休憩時間は給与計算に含めない。」という正誤判定項目がありまして;こんなもん,もし“正答”がその通りだったら労基法違反ですから,即本部に御確認直電です.

ところが,そうしますと担当者様は「確かにそれが正答と本部は判断認識しております.」との御回答.いやどう転んでもマズいだろ.

 

そこで,あらためて同社本丸の専門部署に繋いで頂いた結果,審議折り返し御連絡の回答としては「同様」との事で,そうしますと此方(筆者)は,既に調べ上げていた先例や当局通達,もとより法令条文,判例等に至るまで,リアルタイムで出来る限りの「設計やり直し」を手元に置いて「御提案」の僭越ターン着手開始となります.

上述のトライグループ様公式見解としては,「業務委託は労働契約ではないので『休憩』概念がそもそも存在しない」という立て付けです.そこで,コレが果たして本当に大丈夫なのか,という観点から話を進めます.

先ず有名周知の通り,そもそも「業務委託」という契約方式は,民法を始めとする諸法規の典型契約には存在しません.近そうなところで探してみると,せいぜい「請負」か「準委任」あたりが何とか使えそうです.そこで先ず,この2類型の原則から復習してみる.

「請負契約」とは,当該契約内容の「完成」を以って職務提供の完遂とする契約です.そうしますと,この場合そもそも例えば「毎週1回90分指導」のような指定は出来ない.なぜなら,そもそも「完成」すべき職務の目的が明示されていない上に,請負は元々当該「完成」(そしてその完成成果物の引き渡し)さえすれば良いのですから,それまでの間の方法手段は問わない訳です.勿論,その完成の為なら各分野の更なる特殊専門家に再請負させる事だって出来ますし,指導時間も回数も請け負った側が「完成」の為に計画策定して提供すれば良く,極端に言えばコネ入試を取り付けて合格内定を得ても完全勝利と言える訳です.

と,こう見てくると,「業務委託契約」の含意として「請負」は今一つ使いにくい気がします.そこで,今度は他方の「準委任」について考えてみましょう.

元々,民法に規定されている典型契約の題目は「委任」ですが,これはあくまで「法律行為を代理させる契約」の事です.通常の民事職務提供一般は,法的な意味での「法律行為」には該当しない場合の方が多い(それこそ例えば「教育職務提供」などは別段法律行為にまず該当しない)ので,民法原文に直接は無いものの,事実上確立している「準委任」契約を考える事となります.

この「(準)委任」が請負と決定的に異なるのは,「契約で定めた職務提供の完遂」を以って当該準委任契約の履行が満足されたと認められる点にあります.即ち,例えば「週1回90分指導」の準委任契約なら,当該「指導」の実態さえ提供していれば受任者は契約を履行完遂した事になる訳です.

…つまり,その指導の結果として成績が上がるかどうか,しかるべき入試に合格するかどうか,またそれどころか「そもそも指導を受けた生徒がその内容を理解したかどうか」さえも,本来的には何ら問われません.いやしかし,それってこと教育職においては,一体何の意味があるのでしょうか??

 

ここまで考えてくると,殊に教育業界に典型される人材紹介業において広汎に利用されている「業務委託契約」という代物が,いかにあやふやな存在であるか,と痛感されるのではないかと存じます.

それこそ,当該業務委託契約の受託者は,そもそもの基本契約書面を交わす前に,「これは請負ですか準委任ですか?いずれも不適当とお考えであればいっそ労働契約の方が使いやすいのではないかとも思料されますが,御社の公式御見解を遅滞なく御回答お願いします」と毎回確認した方が良いと思われます.

しかし少なくとも,筆者が存じる限りの各企業は,例えば「業務遂行の為の交通に際する安全は受託者の責任で行うこと」などと明記しており,これだと労働契約に該当する事は有り得ません.そうしますと結局,“結果さえ出せば経過は問答無用で手段を択ばない”「請負」か,“受任した契約の文言通り遂行するけど結果責任は問われない”「準委任」か,という話に出戻りとなります.ちなみに,本稿では詳述しませんでしたが,「派遣」契約の場合にはそもそもに「労働」契約が前提として付随します.

「業務委託」を発注している各企業総員におかれましては,「結果は出すけど何でもアリ」の請負または「文言通りに仕事はするが結果責任の保証は無い」準委任で果たしていいのか,もしくは労働契約として締結して保険等労働諸法規上の責任リスクコストを企業サイドで負う事とするのか,明確に定めて頂きたく求めるばかりであります.

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